2007年7月 9日 (月)

「Triple-negative breast cancer」の世界(4)

というわけでしつこつ続くのです。
今日の論文はLancetの総論から

Lancet Oncol. 2007 Mar;8(3):235-44
Triple-negative breast cancer: therapeutic options.

総論なのでとても全内容は紹介できません。私がこの論文で一番面白いと思ったのは「Triple-negative cancerはBRCA1 associated cancerと似ている」というところでした。

ホルモンレセプターが陰性であるのは当然であるとしても、gradeが高かったりKi67がよく染まったり、前回話題にしたCK5/6、EGFRが陽性であることが多かったりというところです。
それからもっと細かく見ていくとp53の変異とかc-MYCの過剰発現とかもbasal-likeと同程度に認めるようなんです。

BRCA1の変異は通常germline mutationで認めるもので、いわゆる普通の乳がんでは認めませんから、どうしてそんなに似てしまうのかというのが次回のお題になります。

追記:この総論の中でもうひとつ重要だなと思ったのは、「basal-likeはどこからやってきたのか?」ということです。myoepithelial markerとの関係は当然のごとく濃厚なのですが、basal-likeの多くでluminal marker CK 8/18も染まることなどから、やはり「stem cell」由来であろうとしています(”suggest”と、ちょっと弱い表現でしたが)。ここはしっかり押さえておきたいポイントかと思いました。ここはちょっと引用しておきます。

Most tumours expressed luminal cytokeratin 8/18, suggesting that basal-like cancers also possess characteristics of luminal lineage. Furthermore, several
classic myoepithelial markers were rarely expressed. The combined findings of coexpression of luminal and basal characteristics and non-comprehensive expression of basal markers, provide evidence against the hypothesis
that basal-like cancers are derived directly from myoepithelial cells. Instead, these findings suggest dual basal and luminal differentiation from a stem cell. There is currently a great deal of interest in the identification and definition of breast-cancer stem cells and a number of studies have documented phenotypic similarities between uncommitted cells with self-renewal potential and basal- like cancer cells.

2007年7月 6日 (金)

期待の新薬?Ixabepilone

JCO早版で「Ixabepilone(読めねい)」に関する論文が5報もいっぺんに報告されてます。

「Ixabepilone」とは新規の抗癌剤らしいですがターゲットを絞ったクスリではないようです。microtubulesの脱重合疎外薬らしいので、taxanの仲間のクスリなんでしょうね。抄録しか読んでいないので詳しくは判りませんが治療前にanthracyclineのみ入っている状態だったら結構効きそうですし、taxan failureでも割といけるかも、というところでしょうか。
neuropathyなどはあるようですが安全性も許容範囲みたいですね。
私、このクスリのこと全然知らなかったのですが、もしかしたら期待の新薬なんでしょうか?

実際に手元にやって来るのはまだまだ先の話でしょうけど、手持ちの札が増えることは何にしろ良いことですね。

Journal of Clinical Oncology, 10.1200/JCO.2006.10.0784
Phase II Trial of Ixabepilone, an Epothilone B Analog, in Patients With Metastatic Breast Cancer Previously Untreated With Taxanes

Journal of Clinical Oncology, 10.1200/JCO.2006.09.7535
Phase II Clinical Trial of Ixabepilone (BMS-247550), an Epothilone B Analog, As First-Line Therapy in Patients With Metastatic Breast Cancer Previously Treated With Anthracycline Chemotherapy

Journal of Clinical Oncology, 10.1200/JCO.2006.09.7097
Phase II Clinical Trial of the Epothilone B Analog, Ixabepilone, in Patients With Non-Small-Cell Lung Cancer Whose Tumors Have Failed First-Line Platinum-Based Chemotherapy

Journal of Clinical Oncology, 10.1200/JCO.2006.09.3849
Efficacy and Safety of Ixabepilone (BMS-247550) in a Phase II Study of Patients With Advanced Breast Cancer Resistant to an Anthracycline, a Taxane, and Capecitabine

Journal of Clinical Oncology, 10.1200/JCO.2006.08.9102
Phase II Clinical Trial of Ixabepilone (BMS-247550), an Epothilone B Analog, in Patients With Taxane-Resistant Metastatic Breast Cancer

2007年7月 2日 (月)

乳癌学会終了(ちょっと愚痴ってます)

第15回乳癌学会終了です。今回、しょーもないポスターなど貼ったりしてきましたが、疲れました。

学会に来るといつもなのですが、「自分が知らないことが何と沢山あることか」と途方に暮れてしまいます。そして華々しい活躍をされている先生方を見たり、たくさんの人の中にいると自分が砂場の砂粒のひとつのような気がして得も言われぬ不安感に苛まれます。「どうして私はこうなっちゃったんだろう?」という気持ちが消えません(今でも)。

また今日から「日常」が始まります。その時その時を大事にやっていくしかないのでしょうね。

Dscf2677

2007年6月18日 (月)

「Triple-negative breast cancer」の世界(3)

昨年2006年に次の論文が発表されています。

JAMA. 2006 Jun 7;295(21):2492-502.Race, breast cancer subtypes, and survival in the Carolina Breast Cancer Study.

この論文の中で免染を使った新しい定義づけをしています。とは言ってもたいそうなことを行っているわけではなくてPgRを追加してHER2陽性をホルモンレセプター感受性で2つに分けただけのことなんです。

HER2: HER2(positive)  ER(negative)  PgR(negative)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(any)
luminal A: HER2(negative)  ER(positive) and/or PgR(positive)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(Any)
luminal B: HER2(positive)  ER(positive) and/or PgR(positive)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(Any)
basal-like: HER2(negative)  ER(negative)  PgR(negative)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(one or both positive)
unclassified: HER2(negative)  ER(negative)  PgR(negative)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(negative)

ただこの分類ではluminal Bの半数くらいがluminal Aに入ってしまうそうです。

この論文の主題はこの分類を使って「乳癌の治療成績になぜ人種差があるのか?」というこれまで割りと見て見ぬふりをしてきた問題に焦点を当てたところなのです。うーん、渋い論文だ。

大ざっぱではありますが、人種を「African American」vs「Non-African American」に分けて調べています。私、よく知らなかったのですが「African American」は治療成績がかなり悪いらしいですね。それでsubtypeを調べてみると驚くことに両者のsubgroup間はほとんど差がないのに「African American」のpremenopausalのみ突出して「basal-like」が多いのです。それが成績不良の一因ではないかと考察しています(ただ、「basal-like」を除いても「African American」は成績が劣るのでsocioeconomicな要因で治療へのアクセスがあまり良くないというのもあるのではないか、とも説明していますが)。

5月に京都でアストラゼネカ主催の研究会が開催されましたが、その時に川崎医大の紅林先生が講演をされました。その講演でこの免疫染色の方法を使って分類した日本人のsubtypeについて言及されていました。これがまた興味深いものでした。日本人は「basal-like」が「Non-African American」よりも少なくて、「luminal A」は逆に多い、という結果だったのです。これまで「日本人の乳癌は欧米の乳癌とは違う」という話しはずーっと昔からありましたが、それはある意味正しいけれども、理由は単にsubtypeの割合が違うからだ、ということなんですね。とてもクリアカットで分かりやすいです。ただ発表の中で母数や対象については(たぶん)言われなかったと思いますので今後論文などでチェックしたいと思います。

この免染による分類は他の研究者からしても「ほぼagree」なようです。ただちゃんとしたコンセンサスがあるかというとそうでもないので、そのつもりで理解をしておきたいところです。その他の論文では多少違っているものもあるようですし。

実はこの項はまだ続きます。

2007年6月16日 (土)

「Triple-negative breast cancer」の世界(2)

前回の続きで今回は「basal-like」の求め方です。

「basal subtype」はmicroarrayでの分類で実臨床ではなかなか使いようがありません。それで「basal subtype」と近いところを免染で求めて行こうという試みです(これが「basal-like」というやつですね)。

元ネタはClin Cancer Res. 2004 Aug 15;10(16):5367-74.Immunohistochemical and clinical characterization of the basal-like subtype of invasive breast carcinoma.

この研究のソースは前回紹介したPNASの論文と同じものなので説得力があります。

それではどういう抗体を使うかというと
・ER
・HER2
・Cytokeratin 5/6 and/or HER1
という特にひねりもないこれらの抗体です。論文の中ではCK17やc-KITなども試されていますが結局これらが最善だったようです。
それでどう分類したかというと....

HER2: HER2(positive)  ER(any)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(any)
luminal: HER2(negative)  ER(positive)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(Any)
basal-like: HER2(negative)  ER(negative)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(one or both positive)
negative: HER2(negative)  ER(negative)  Cytokeratin 5/6 and/or HER1(negative)

と、たったこれだけ。でもこれでmicroarray subtypeをほぼ再現できるようです。
「ちょっと待ってよ。luminalがAとBに分かれてないじゃないの」とお気付きですね、皆さん。この論文の2年後2006年にその答えが発表されました。

また続く。

2007年6月 8日 (金)

「Triple-negative breast cancer」の世界(1)

定期的に書くと言っておきながらまたもや間隔が空いてしまいました。ところで今回のお題は「Triple-negative  breast  cancerとは何か?」で書いてみたいと思います。

「Triple-negative  breast  cancer」といえばもちろんホルモンレセプター陰性かつHER2陰性症例のことですが、混乱を招きやすいのは「basal subtype」との関係です。

今さら説明するまでもないかもしれませんが「basal subtype」とはtissue microarray上の分類です。

luminal A
luminal B
HER2
basal subtype
normal breast like

癌の組織をhierarchical clusteringしてこの5型に分類したものです(Repeated observation of breast tumor subtypes in independent gene expression data sets Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Jul 8;100(14):8418-23. Epub 2003 Jun 26.)。この5型分類で予後の曲線がきれいに分かれます。ちなみにHER2 subtypeが最も予後不良ですがトラスツズマブの導入以前なので現在はまた違うかもしれません。

このmicroarray分類上の「basal subtype」は実臨床で使うホルモンレセプター陰性、HER2陰性のものがほとんどなので我々がよく使う「Triple-negative」とう言葉とこんがらがってくるようです。

それでは即刻microarrayを実臨床に導入して治療選択のdecision makingに使えればよいのでしょうが、実際はそうもいきません。それで何とか今使えるテクニックを応用して「basal subtype」を同定できないかな、と考えたのが免疫染色を使った「basal-like」という考えのようですね。

次回は「免染でどう染め分けていくか?」です。

今回は1週間のうちに更新するつもりです。今度は絶対。

2007年4月17日 (火)

すっきりした?すっきりしない?St. Gallen 2007

St. Gallen 2007の報告もやっと一段落でしょうか。

製薬会社のテレビカンファには出席できなかったのですが、渡辺亨先生の講演は幸運にも2回にわたって聞くことができました。

1回目は熊本、2回目は福岡でした。

大きなくくりは変更がないようですが、内容が整理されてより狙いが定まった印象を持ちました。昨年追加報告されたSt. Gallen 2005のupdateに象徴されていると渡辺先生は表現されてましたね。

First—select the target: better choice of adjuvant treatments for breast cancer patients Annals of Oncology 17: 1772–1776, 2006

まさにキーワードは”select the target”
ホルモンレセプター陽性の患者にはホルモン療法を、HER2陽性の患者にはトラスツズマブを、ホルモンレセプター”partially response”(”uncertain”という表現から変更になりそうだということでした)にはホルモン療法では不十分なので化学療法で補って....というふうにある意味あたりまえな事柄が確認されたようです。
それだけだと「あっ、そう」という感じですが、奥底にはもしかしたら深いものがあるのかもしれません。

なぜか欧米ではアロマターゼ阻害剤の支持があまり集まらないようですが理由は薬価のせいだけではないようなんです。今回のSt. Gallenではトラスツズマブのことに話題は向きがちですが、タモキシフェンの復権とアロマターゼ阻害剤の再評価がある意味、陰の主役なのかもしれないと密かに考えています。
そう考えたのは、先日のBCFMKというセミナーでがんセンター東病院の向井博文先生のとても素晴らしい講演を聞いたというのが大きな理由です。ATACとかBIG1-98でタモキシフェンとアロマターゼ阻害剤の比較でDFSで差が見られるけど、OSでは見られないのはなぜなのか、一方IESではなぜOSで差が見られたのか、などとても興味深い解釈をされていました。私はこれで疑問が氷解しました。(ただ、説明された内容は「ある解釈」なのでここに記載するのはやめておきます)。

この数か月でたくさんの情報が入ってきて、現在飽和状態です。調べなければならない論文をとりあえずそろえたのであとは読むだけ。でもこれが一番大変なんだな。
少しずつ更新したいと思います。

2007年2月16日 (金)

「温存術後の照射はいつが最適か」には抜け道があった?

前回のエントリーで、「温存術後の照射の組み入れ方はどうするのが最適か?」という疑問を提示しました。

論文も読んでみたのですが、感想はいっしょで、その疑問を抄読会で問いかけてみたのですよ。そうしたら.....

「node(+)の高リスク群のヒトはneoadjuvant〜温存〜照射の順番でOK」との意見が出ました。なーるほど。neoだとスケジュール通りにフルドーズ入るだろうし、術後6週間以内に照射も始められるわけだ。

「化学療法」「照射」をどう組み合わせるかにばっかり気を取られていたけど、「化学療法」「照射」に加えて「手術」もあるんですよね。この3者をどう組み合わせるかが臨床医の腕の見せ所でもあります。

でもね、どうして気付かなかったんだろ。「お馬鹿」は治ってませんね。でも聞いてみるもんです。

そう考えると、neoadjuvantはいろいろな細かなリスクを回避できる優れた方法なのだなとあらためて思いました。

2007年1月31日 (水)

術後温存乳房への照射はいつが最適?最近の論文抄録から考えてみた

最近の論文の抄録からちょっと気になるものをピックアップです。

Phase III Trial of Concurrent or Sequential
Adjuvant Chemoradiotherapy After Conservative
Surgery for Early-Stage Breast Cancer: Final Results
of the ARCOSEIN Trial

Journal of Clinical Oncology, Vol 25, No 4 (February 1), 2007: pp. 405-410

乳房温存術後は通常外照射というものを行って局所再発を抑えるものですが(乳癌診療ガイドライン 放射線療法 2005年版でもグレードA)、術後化学療法を行う必要があるような方々は、化学療法→外照射の順番が一般的になってきていますが、ガイドライン上は
「術後化学療法の有無にかかわらず、照射をいつ始めるべきかについての根拠は十分でない。 - 推奨グレードC」なのです、実際は。

ただ、解説の中では
化学療法が必要な乳房温存療法の患者群は遠隔転移の高危険群であり、生命予後の観点からは遠隔転移の抑制が局所再発の抑制に優先する。その意味では、フルドーズの化学療法を行うための照射の遅れは、6か月程度までは許容されると考えるのが妥当であると思われる
とありますから、もちろん意味はあるわけです。

で、この論文抄録です。

[CMFに引き続いて外照射群] vs [CMFと外照射同時群](median follow-up 60 month)

という地味ですがなかなか味わい深いスタディなのです。

で、結果なのですけどdesease-free survival (DFS)、locoregional recurrence-free survival (LRFS) も有意差は出ていませんから、「あっ、そ、ふーん」というところですね。ですが面白いことにsubgroup解析を見てみると、node (+) の群ではLRFSが優位に良好なのです(locoregional recurrence のリスクリダクションが39%)。

つまり、高リスク群では化学療法と照射を組み合わせると局所再発をさらにおさえることができるかもしれないということです。subgroup解析なのが惜しいところですけどね....

これも抄録からですが

Impact on Survival of Time From Definitive Surgery to Initiation of Adjuvant Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer
JCO Oct 20 2006: 4888-4894.
では、術後化学療法は術後12週目までに行ったほうがよいというデータが示されています。逆に言うと術後12週までであればいつ化学療法をしても結果は一緒であるということなんです(retrospective studeなんですけど)。

そうすると温存乳房への術後照射はいつ行えばよいのでしょうか?
1. これまで通り化学療法終了後に照射
2. 高リスク群は化学療法と照射を併用
3. 術後3〜6週後から5週間かけて照射を行い(それでも術後12週には納まる)それから化学療法

うーむ、ますます混乱。
ただ今回は抄録しか読んでいないので本編読んだらニュアンス違うかもしれないのでその辺はご了承ください。

2007年1月19日 (金)

マンモグラフィ講習会初体験

1月13日、14日、とある都市でのマンモグラフィ講習会参加してきました。
この年(結構いい年)になって初めての体験だったので言うのもはばかられるくらいですが、やっぱり取るもの取っておかないとこれから何かと大変ですからね。

スケジュールはとってもタイト。土曜日は朝の8時30分から受け付けて夜は7時までで、お昼休みも1時間弱。もうびっちりでした。

こんなに長時間講義を受けるなんて大学の時以来でしょうか(でも大学の時は居眠りばっかりしてましたけどね)。いや疲れました。

でもこのように集中的に系統的に講義を受けるというのはとても良いことですね。すごく勉強になったし身に付いた(気がします)。この講習会、ここまで完成させるのはスタッフの強い意志と努力があったことは容易に想像できます。途中と最後にアンケートも回収されましたが、さらに今後良くなっていくんでしょうね。

でも日曜日の試験はこりごりです。何回受けても嫌なものですね、試験って。
昔の忌まわしい記憶がよみがえってきます。
B-1判定で(感度、C感度は85%以上でしたが、特異度が84.8%でわずかにAにおよびませんでした)基準はパスできましたのでホッとはしましたが。

疲れ果ててしまったのでしばらくはグレードアップの試験を受ける気にはなりませんが来年あたりにどうかな、とちょっと考え中です。

*前回の訂正:渡辺亨先生のブログはちゃんと更新されてました。すみません。みなさん定期購読しましょう。

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